忍者ブログ



 先週に更新できなかったので、少し前に書いた話をこちらにのせます。
 最初に正直に申し上げます。この話には続きがありません。いや、書きたいなと思ってるんですけどね……どうしても続きの展開がうまく想像できないというか……。いつか書けたらとは思ってます。思ってるだけですが。
 それでもよければどうぞ。

――――――――――

 十年前、とある男が罪を犯した。
 しかし彼は国の王であったため、裁判にかけられることはなく、罰が科せられることもなかった。
 だが、十年後、罪を犯した男は、その罪を刃と共に突きつけられることになる。

 世界の東に位置する国、太霜《たいそう》。
 太霜は昔から世界で一番と言われるほどに面積の広い国で、それゆえに昔からあちらこちらで争いの絶えない国でもあった。最近になって漸く争いが収まり、どうにか平和な生活を手に入れたものの、それでも争いの火種はどこに転がっているか分からない。そのため、太霜の十七代目の王となった男――乾劉《かんりゅう》は、まず太霜を二十の区に分け、それぞれの区を治める長を決め、各区へと派遣した。二十の区を治める長は、過去に争いを治めた手柄を持つ者であったり、あるいは人をまとめる才に長けた者であったりと、年齢や職業は様々であったが、これはと思う者を選んだ。乾劉は彼らに二十の区を治めさせることで、国の平定を目指し、それは功を奏した。なぜなら、太霜は広い国であるために、宗教もかなりの数があり、しばしば異なる宗教の教徒同士の争いが起こったからだ。しかし、国を二十の区に分ける際に、異なる宗教の教徒同士の争いの再発を憂えた乾劉は、宗教ごとに分けるようにしたのだ。それだけでなく、区を治める長も、その区に住む人々が信仰する宗教と同じ教徒か、あるいはその宗教に理解の深い者を選んだ。その甲斐あってか、巻竜が憂えていた、異教徒同士の争いは起こらなくなり、嘗て争いの多かった時代は終わったように思われた。
 人々は平和な時代をもたらした乾劉のことを偉大と讃え、賢明な王だと謳った。
 しかし人々は知らない。
 国を二十に分ける際に乾劉が犯した罪を。
 ――嘗ては心から信頼していた、最も信頼の篤かった、この世でただ一人の親友だと言って憚らなかった男を、乾劉が自らその手にかけたことを。

 日が暮れ、夕餉の時刻も過ぎた頃、ある知らせが乾劉の許に届いた。
 それは二十の区の一つ、白名《しらな》へ、きちんと治安がなされているか、視察に行っていた息子が帰ってきたというものだった。ただ帰って来たのではなく、一人の女性を連れて帰ってきたという。しかも将来は伴侶にしたいと言っているそうだ。
 乾劉にとってそれは寝耳に水だった。知らせを持ってきた従者自身も、いかがなさいますか、と困惑しきっている様子だった。
 無理もない。なぜなら、乾劉がやっとのことで授かった息子――藍正《らんしょう》は、もう成人の儀も済ませたというのに、今まで一度も色めいた話を聞いたことがなかったのだ。年頃になっても全く女性に興味を持つ様子がなく、乾劉も従者らと共に大いに気を揉んだものだ。いずれは藍正にこの国を、と考えているのだから尚更だった。もし藍正が誰も伴侶に迎えず、子供が生まれなければ、やっと培った今のこの平和な時代が危うくなるかもしれない。
 それが思いがけず、女性を連れて帰ってきたと聞けば、まだ会ってもいないその女性に心からの感謝を捧げたくなるのも道理というものだろう。今まで一度も浮ついた話は聞かなかったのにどういう風の吹き回しかと困惑しないでもなかったが、とにもかくにも、これでひとつ、しかし最大の心配の種がなくなりそうなのだ。喜ばないでいられようか。
 更に、その女性が陛下に会いたがっておられます、と従者が続けた。それを聞いて乾劉はすぐさま、それまで腰を下ろしていた椅子から立ち上がり、藍正と彼が連れ帰った女性がいる部屋へと向かった。
 そこで運命が口を開けて待っているとも知らずに。

 部屋の扉を従者が開けるのを待ってから、乾劉は恭しく頭を垂れる従者の横を通って、部屋の中へと足を踏み入れた。
 その部屋の中には確かに、知らせを持ってきた従者の言っていた通り、藍正と、見慣れない女性がいた。藍正は寛いだ様子で椅子に腰かけ、従者が持ってきたと思しき甘酒をのんびりと啜っていたが、女性の方は、そんな藍正のすぐ後ろで、他の従者達と同様に、一歩引いたところで佇んでいた。
 藍正の後ろに控えるその女性を見て、乾劉は密かに首を傾げた。まず、その人物が女性かどうか、一目では判断し難かったのだ。なぜなら、身に纏っているものは、この国で暮らす人々と変わりないものだった。ただし、女性が着るような衣装ではなく、動き易さを重視した男性が着るようなものだった。銜えて、頭には顔を隠すように布をぐるぐると巻いている。いや、両目だけは見えるよう、その部分だけは僅かな隙間を残しているが、顔が分からないことには変わりない。
 もうひとつ加えるなら、その人物が刀を腰に下げていることだ。
 帯刀している者を見るのは珍しくない。平和な日々を送れるようになったとはいえ、いつまた争いの火種が弾けるか分からない。そのため、王宮には常に帯刀した兵士が控えているし、街中でも、護身用にと探検や刀を身につけている者がそこらに溢れている。
 しかし、武器を持っている女性というのはまず見かけない。
 だからか、藍正が連れ帰ってきたというだけではなく、乾劉は余計にその人物が気にかかった。
 一体どんな者なのか――考え込みかけた乾劉を我に返らせたのは、藍正の声だった。
「遅くなって申し訳ありません、父上。ただ今白名から帰って参りました」
 堪能していた甘酒を中断し、わざわざ椅子から立ち上がって一礼しながらの藍正のその言葉に、我に返った乾劉は、若干の焦りを誤魔化すように、うむ、と頷いた。
「御苦労であったな。どうだった、白名は」
「ええ。父上の忠告の御蔭で、八燦《はっさん》はうまくやれているようです。そうそう、八燦ですが――」
 藍正の報告を聞きながらも、乾劉は藍正の後ろに佇む人物が気になって仕方がなかった。
 顔は布のせいで隠れていて見えないが、その人物が佇む様や、背筋を伸ばした姿勢や、纏う雰囲気が誰かに似ているような気がするのだ。それもとてもよく知る誰か。それに、腰に下げられた刀――。
 あの刀を、自分は知っている。驚くほどに、強くそう思うのだ。
 乾劉の視線が向けられていることに気付いているのかいないのか、藍正の後ろの佇む人物は、藍正が報告を終えるまでの間、ぴくりとも微動だにしなかった。眠っていやしないかと一瞬思ったが、もし眠っているなら、こくりこくりと舟を漕ぎそうなものだから、やはり違うだろう。
 藍正が報告を終えたところで、乾劉はようやく、ずっと気になっていたことを尋ねた。
「時に、藍正、伴侶にしたいという人を連れてきたらしいな」
 乾劉のその問いかけに、藍正は母親譲りの端正なその顔を綻ばせた。
「そうなんです。彼女――青遠《せいえん》とは今日、たまたま会ったんですけど、こちらの一目惚れでしてね。俺が王子だって話したら、彼女もあなたに会いたいということで、連れてきたんです」
 青遠――それが彼女の名前らしい。その名前を聞いて、かちり、と頭のどこかで遠い記憶の箱が開いたような音がした気がした。
「わたしに?」
 ええ、と藍正が頷いたのを合図のように、その時初めて、藍正の後ろに佇んでいた人物が動いた。
 一瞬だった。
 藍正が連れてきた女性――青遠の顔を隠すようにぐるぐると巻かれていた布がはらりと床に落ちた、と思った時にはもう、乾劉のすぐ目の前に青遠の顔があった。それだけではない。乾劉が逃げられないよう、乾劉のすぐ後ろにある壁に切っ先をのめり込ませるようにして、乾劉のその首に刀が突きつけられていたのだ。
 乾劉の顔に、いや、身体中にどっと嫌な汗が溢れ出た。命を握られていると知ったからではない。いや、命を握られていると知ったのもあるが、それよりもっと乾劉を戦《おのの》かせたのは、今まさに自分の首に突き付けられている刀と、その刀を握る人物――青遠のその顔だった。
 自分の首に突き付けられている刀は、よく見る刀とは違い、刀身が黒い。玉鋼《たまはがね》という、特別な黒い石から作られたからだと聞いたことがある。そして青遠は、刀についてそう話していた男ととてもよく似ていた。生き写しかと思うほどに。
 どうして忘れていたのだろう。彼には藍正と同じくらいの娘がいると、彼からよく聞いていたではないか。
「……青威《せいい》……」
 あまりのことに息すらも忘れて、目の前にある顔を凝視しながら、喘ぐようにそう零した乾劉に、青遠は父親譲りの青い目を冷たく煌めかせた。
「どうやらこの顔は憶えているらしいな。それもそうだろう。嘗て、貴様の親友だった、貴様がその手で殺した男なのだからな」
 それを聞いて、部屋の隅で控えていた従者達が思わずといったように身動ぎしたり、驚きの声を漏らしたりと、漣《さざなみ》のように反応を示した。中には乾劉の護衛である従者もいたが、今まで青遠が全く動いていなかったからか、青遠が動いても咄嗟に反応できなかったようだった。いや、仮に反応できていたとしても、やはり青遠の方が幾らか早かったろう。その証拠に、腰に下げている刀の柄に手をかけてはいるものの、そこで動きは止まっている。もっとも、今は青遠が言ったことが信じ難いがゆえに、動くに動けないのだろうが――
「父を憶えているなら、わたしがここへ来た理由は分かるだろう。父を殺した理由を話せ。内容によっては――」
 青遠はぎり、と、柄を握り締める手に力を込めたと同時に、その身に纏う殺気を増し、部屋中の空気を張り詰めさせるだけでなく、乾劉に声が出ないほどの緊張感と圧迫感を与えた。
「この場で貴様の首を跳ねる」
 青遠は冷たくそう告げた。

拍手

PR
 back   home   next 
  
  

   admin/write
カレンダー
11 2017/12 01
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
フリーエリア
最新コメント
最新トラックバック
プロフィール
HN:
小月 静夜
性別:
非公開
趣味:
読書、物書き、落書き、猫と戯れること
自己紹介:
オリジナル小説サイト「小鳥は森に歌う」の管理人。
バーコード
ブログ内検索
P R

Template by hx
忍者ブログ [PR]