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昔、ある二人の子供がいた。
 ひとりは、自分の力が強過ぎるがゆえに、自分より強い者を欲した。
 もうひとりは、自分が弱過ぎるがゆえに、強くなることを欲した。
 遠い星にいた二人は、だからこそ磁石のように互いを引き寄せ、出会ったのだ。

●○●

 グラジオラス。
 人類が誕生して二千年余り、近代化を遂げなかった国はないが、世界の中でも大きく近代化を遂げた国、それがグラジオラスだ。機械の技術――とりわけ、ロボットやアンドロイドの技術の発展で、グラジオラスの右に出る国はいない。また、ロボットの知識や技術に関して、一番の天才だと言われる博士――エマ・アーモンドがいるのも、グラジオラスの名を広めるのに一役買っていた。
 だが、グラジオラスが世界で有名な理由はもう一つある。
 それは王立防衛軍だ。
 機械の技術が発展するにつれて、次第に人々は自分達の住む星――地球以外にも、宇宙にはたくさんの星があること、そしてその中に幾つか、地球と同様に人類に似た存在が築いた文化国がある星があることを知った。それによって得られた情報は何もいいことばかりではない。地球はそうして知り得た、いくつかの文化国を持った星と干渉し、互いに友好関係を築くこともできたが、それが叶わなかった星もある。後者の星は、グラジオラスと同様に、機械の技術が進んでいるばかりではなく、それによって強力な武器を造り出した星もある。
 そのため、グラジオラスは地球への侵入に備えて、王立防衛軍を立ち上げたのだった。
 王立防衛軍は、元は宇宙からの侵入に備えて立ち上げられたものだが、他にも、宇宙から遭難して来た他星人の保護や送還も仕事の一環として行われている。また、地球に毒牙を向けてくる可能性のある星について、絶えず情報を集める以外にも、自国だけでなく他国からの要求もあれば、テロなどの大規模な事件の収拾に向かうことも、王立防衛軍の役目の一つだった。
 危険な任務が多いために、王立防衛軍に志願する者は多くない。
 そこでグラジオラスは、年に一回、腕に自信を持つ者がその力を競う大会――武道大会を開催することにしたのだ。そこで優秀な成績を収めた者に声をかけ、王立防衛軍に入って貰おうという目論見からだった。
 グラジオラスのその目論見は当たり、王立防衛軍には世界中から曲者や猛者達が集まった。
 しかし、いや、だからこそ、王立防衛軍の顧問に就いている者が、若い女性だと知った者達は、一人の例外もなく驚く。
 彼女の名は、カノン・アーモンド。
 群を抜く天才だと讃えられる博士、エマ・アーモンドの従姉妹だ。


 カノン・アーモンドは、言葉が分かるようになった頃から、自分がただの子供ではないらしいことを理解していた。
 なぜなら、そもそも自分の父親や三人の兄達がどう考えても普通ではなかったからだ。何の機械もなしに空を飛べるのも当たり前だし、気功砲――エネルギーの塊といえば分かるだろうか――をうてるのも当たり前だし、銃を撃たれても、その銃弾を平気で素手で受け止められるのも当たり前だし、突進してくるトラックなんかを正面から受けて止められるのも当たり前だ。
 ただ、カノンやカノンの三人の兄の母親であるモニカ・アーモンドや、その姪でありカノンにとっては同い年の従姉妹に当たるエマ・アーモンドは、本人たちも公言しているように、何の力も持たないただの人間だ。
 どうしてカノンやカノンの兄達が、そこらにいる人達にはできないことができるのかというと、どうやらカノンの父親が原因のようだった。
「お父さんは、他の星からやってきたのよ」
 カノンの素朴な疑問を受けたモニカは隠すことなくそう告げ、二人の馴れ初めを話してくれた。
 モニカは元々、兄であり有名な博士でもあったチャールズの仕事を手伝っていたが、仕事帰りの途中で、宇宙からやってきたらしい遭難船を見つけたのだという。その船は難破しており、素人目から見てもひどい状態で、中に生存者がいるとは思えなかったが、モニカの通報でその場に駆けつけた王立防衛軍の者達は、その船の中に一人の男性を見つけた。船と同様にひどい状態だったが、余程運が良かったのか、あるいは余程頑丈な身体を持つ種族だったのか、とにもかくにも、その男性は生きていた。
 すぐさま病院に運ばれたその男性は、幾つかの手術を受け、長い入院生活を送ることになったが、その男性に地球に対する敵意がなかったため、病院もモニカも彼を厚く看病した。その御蔭で、彼は長い入院生活を経て、ようやく健康な身体を取り戻せた。
 しかし、問題があった。彼はどこからやって来たのか、どうして地球に遭難して来たのか、その理由を一切語ろうとしなかったのだ。「元の星に帰りますか?」という王立防衛軍の送還の申し出も丁寧に断った。何かただならぬ事情が――それも戦争規模のことが、彼のいた星で起きたのかもしれないと、王立防衛軍は判断し、王立防衛軍のその報告を受け、国も彼の滞在を認めたのだった。
 モニカから厚い看病を受けていたのもあって、彼はモニカさえよければ、モニカのところで住みたいと希望したのもあり、彼はモニカと一緒に暮らすようになった。二人が結婚するのにそう時間はかからなかった。
 そうして二人の間に生まれたのが、三男一女――カノンと三人の兄だった。
 子供達は四人揃って、おかしいくらいに父親に似た。父親の持つ能力――不思議なことができる力をそっくりそのまま受け継いだのだ。最も強く受け継いだのはカノンだった。なぜなら、きょうだいで取っ組み合い喧嘩をして勝つのはいつもカノンだったからだ。兄達の方が早く生まれて、身体の大きさも兄達の方が上のはずだが、そんなのは関係なかった。次第にカノンは兄達に仕掛けられても、喧嘩には参加しなくなった。兄達よりも自分の方が強いと悟ったのもあるし、自分がまだ小さいうちはいいが、そのうち自分の中にある力が暴走して兄達を傷つけてしまうかもしれないと危惧したからだった。
 父親もそれを察したのだろう、カノンが義務教育を受ける年になると、自分が仕事をしているところに来てみるか、と言ったのだ。三人の兄達は、飛び級で高等学校に入学したエマと一緒に学校に通っているが、それは彼らが力の抑え方が巧いからだ。父親に、普通に暮らしたいなら力を制御する方法を覚えろと、文字通り容赦なく叩きこまれたからというのもある。
 だがカノンには、兄や父親ですら想像できないような力がある。モニカの母親であり占いで生計を立てている占い師――アンナ・アーモンドに、「この子は地球を滅ぼせる力を持っている」と告げられたくらいだ。到底平凡な人生など望めないだろうとも言われたことを、父親は憶えていたようだった。
 カノンも父親のその提案を呑み、父親に連れられて、父親の仕事先である王立防衛軍へと向かった。
 カノンの父親――エリック・アーモンドは、地球に来て入院生活を経て回復した後、すぐに王立防衛軍から声をかけられたのだ。エリックがずばぬけた戦闘能力を持っていることはすぐに知れ渡ったため、彼以外にはいないだろうと、王立防衛軍の顧問の地位が与えられた。
 娘を王立防衛軍に入れたいというエリックの希望に、案の定というべきか、当然というべきか、王立防衛軍も国も面食らった。考えてみれば当然の話だ。やっと義務教育を受ける年になったとはいえ、まだ十歳の子供を――それも女の子を入れるなど、普通の父親なら躊躇う以前に頑固として止めるものだ。王立防衛軍も国も必死になって、可愛い娘さんを戦地に送るのはやめるようにと、エリックを説得にかかったが、それは逆効果だった。父親の傍で、彼らの説得を聞いていたカノンが、「そこに行ったら、おとうさんよりもつよいやつに会える?」と、目を輝かせたからだった。
 そう、カノンは、物心ついた頃から、自分よりも強い者を欲していたのだ。
 エリックもそれを知っていたから、可愛い娘ではあるが、彼女の希望の可能性があるところへと送ろうとしたのだ。
 頑固な親子に王立防衛軍も国も折れた――というより、エリックが「幾ら話してもわからないようだから、実際に見せた方が早いだろう」と、カノンに自分と手合わせするように言い、王も居合わせた訓練場で、真っ向勝負をしたのだ。まだ幼いものの、大人相手に対等に――いや、対等以上の勝負を見せたカノンの実力を目の当たりにしたため、王立防衛軍も国も、彼女を王立防衛軍に迎えることを決めざるを得なかったというべきか。
 それからカノンは、自分と同様に義務教育が必要な子供たちに混ざって教育を受ける傍ら、午後からは軍の厳しい訓練を受ける生活を送った。軍の訓練は他の訓練生にとっては厳しいものだっただろうが、カノンには物足りないとしか言えないものだった。
 また、一方、大学に飛び級で入学したエマの協力も得て、どうにか自分の馬鹿力を抑えることができないかも模索していた。銃弾を弾き返すことができる強力な繊維はもはや当然のように使われていたが、それにかなりの重量を加える技術が、エマとカノンによって編み出されることになった。
 やがてエマが大学を卒業して父親の研究所を受け継ぎ、カノンも訓練生活を終えようとした頃、転機が訪れる。
 レッドリバース軍がひとつの町ごと人質に取るというテロを起こしたのだ。

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